浴槽にいつまでも浸かっている。僕とのセックスが長時間に及んだときや、あらゆる物事に対して僕が要求しすぎたとき、たびたび彼女はそうなった。そのときの彼女はまるで四肢に力が入っていなくて、何だか死んでしまったみたいに見える。話しかけても物憂げに頭を振る。
 あなたはわたしを重くする、と彼女は言う。重すぎて息が苦しくなる。だからときどき体のなかから流してしまわなくちゃいけない。
 それは流せるものなの。あなたのは幸いにね。人によって違うの。それはもちろん。何だか、僕が薄情みたいな気分だな。違う、あなたのはとても重いの。
 浴槽のなかで彼女の長い髪と少し縮れた草叢が漂っている。水分を含みすぎて皮膚がぶよぶよになるのではないかと心配になるくらい長く彼女は浴槽に浸かり、それからゆっくりと栓を抜く。
 そのときの彼女はもう全然物憂げではなくて、まるで憑き物が落ちたみたいに上機嫌になっているものだから、僕はそれ以上何も訊けなくなってしまう。ただ、浴槽から渦を巻いて流れてゆく水を眺めていると、無性に胸が切なくなるのだ。