姉の顔が狐の面になって三月は経つ。夏祭りに、姉と露店を見て歩いた。ねだられて買い求めた狐の面は、人の皮膚のように柔らかで不思議な手触りだった。「あんたら、姉弟か」露店の店主は僕らの繋いだ手を見てにやり嗤った。
 帰路、姉は面を被り、僕の腕に腕を搦めてふらふらと踊るように歩いた。呼ばれて返事をすれば何でもないと言う。面を被っているため声が少しこもっていた。
 確かに枕許に置いて眠ったはずが、翌朝起きると面は姉の顔にぴたりと吸いつくように被さっており、以来、姉の顔から剥がれない。
 夜目が利くようになった。血のにおいに興奮するようになった。「私はそのうちに獣になるんだわ」前よりもがさついた声で姉は言った。「それでも私を好きでいてくれる」
「もちろん」と答えた僕は、けれども姉と目を合わせられなかったのだ。おそらく姉もそれに気がついただろう。姉が僕の閨に忍んできたのはその晩だ。
「私ねえ、乳房が増えたようなのよ」
 しどけない姉の剥きだしの乳房は、確かに、元の乳房を合わせ腹に添って四対あった。薄桃色の乳頭がぴんと立っていた。「やっぱり私は獣になるんだわ。どの乳房もまがいものではないのだもの。ちゃんと感じる」
 触れてほしいと言われれば拒めようもなかった。恐る恐る伸ばした手には、姉のにおいと柔らかさを確信した瞬間力がこもった。面の上から、けれども生々しく柔らかな唇を貪り、押し倒して体をまさぐると尻のあいだからはすでに尻尾が生えかけていた。
 姉は全身を痙攣させて僕にしがみついてきた。鋭い爪が僕の皮膚を破り、抱き合いながら血にまみれた。もはや意味を成さない金切り声は、獣になる前兆だったか、それとも抑えがたい絶頂の所為だったのか。
 翌朝気がついてみれば姉の姿はすでにどこにもなく、皺の寄った衣服が濃いにおいを残して脱ぎ散らかされているばかりだった。