「最近はさ、俄然こいつに夢中なんだ」
 四十路を迎えた友人が、地味な祝杯にと酒と一緒に持ってきたのがその酒飲み人形だったのだ。少女の造形を成した人形はテーブルの隅にちょこんと坐れるくらいの小ささで、手にした杯にちょいと酒を注いでやればこぢんまりと可愛らしく尖った口で上品にそれを干し、そのうえ控えめにぽうと頬を染めてみせるからくりだ。
 どこで買い求めたのかと友人にただしても、「ちょっとしたつてがあってさ」とはぐらかす。ならばせめてからくりを教えてくれとふっくらとしたスカートの裾を捲ろうとすれば、ぴしゃりと手の甲をはたかれて「何て破廉恥な」と眦を赤らめて憤る。
 しようがなしに、上品に酒を干す少女人形を見るだけにとどめて酒をちびちびやりながら、友人が用足しに立つのを待った。と、そのうちにすっかり酔っ払った友人が立ち上がる。
 しめたと膝を打って少女人形を振り返れば、脚をもじもじやりながら全身をぶるりと震わせたではないか。さてはそういう趣向の人形であったかと合点のいった私は、ふっくらしたスカートを躊躇なく捲くり上げ、屈みこんでその股ぐらに顔を寄せた。口を開けたのと、液体が迸ってきたのはほぼ同時だったろう。用足しから戻ってきた友人と、私はまた素知らぬ顔で酒を交わした。友人は何度か少女人形を眺めて奇妙な顔をしていたが、やがて酔い潰れて鼾を掻きだした。
 翌朝友人は大切そうに少女人形を抱えて帰り、それ以来私のところへ持ってはこなかったし、少女人形の股ぐらから迸ったそれは確かに少し温んだ酒以外の何ものでもなかったのだが、迸りが終息したときの少女人形の恍惚とした表情だけは、あとで何度思い返してみても、どうしても、からくり人形のそれとは思えないのだ。