友人のMが結婚したと聞き、祝いを持って逢いに出掛けた。
「やあよく来たね」Mはてかてか光る額を撫でながら私を出迎えてくれたが、肝腎の細君の姿はない。奥さんは外出しているのかと問えば頸を振り、居間に通される。六畳の和室で、なぜか押入れの戸に直径二十センチ程度の穴がくり貫かれていた。
「あいつは慎ましやかだからね」
 どうやらそのなかに細君が居るのらしい。ずいぶんふざけた態度だと思ったが、いい男と顔を合わすと赤面してしまうらしいんだと言われ、そんなものなのかなとも思う。茶も菓子の用意もすべてをMがし、私が暇を告げる段になっても、とうとう細君は姿を見せなかった。もちろん押入れの戸を開けることも、穴から覗くことさえ早々にMに禁じられていた。ただ耳を澄ませばときおり衣擦れのような音を拾えたから、なかに誰かないし何か居るのは確かなのだろう。
「今度は是非奥さんに逢わせてくれよ」
 帰りしな私はそう言ってみたが、Mはただ意味深に笑うだけだった。
 私はM宅を去る振りをしながらそのまま庭のほうへと廻った。居間の障子がわずかに開いていたことには気がついていたのだ。そこから庭の緑が覗いていたことも。
 様子を探るためまず聞き耳を立ててみると、確かにMと細君らしい女の話す声が聞こえた。Mが私の名前を出す。細君が何か答える。それからふいに静かになったと思ったら、肉のぶつかり合う音とMの喘ぐ声。私は急いで居間を覗きこんだ。もちろん当初とは違う種類の興味に駆られて。
 全裸のMが居た。頬を紅潮させ、押入れの前で四つん這いになっている。その背中を、くり貫かれた穴から突きだされたむっちりとやけに艶めかしい脚が、何度も、何度も踏みつけていた。