あなたはそんなところでいったい何をしているの。
 年月の染みた縁側に義姉が立つ。それにぎこちない笑みを返しつつも、意識はたゆまず冷えた爪先にだけあった。
 あたり一面は真綿の雪。私は靴下も靴も脱ぎ散らかしたまま、縁側を越えて庭へと出た。自分でもまるきり整理のついた行動ではなかった。ただ、つかえた胸が苦しかった。
 あなたは自分でも何をしているのかきっと判っていないわね。
 義姉は嗤う。羞恥は行動を看破されたことよりも、義姉の脚に吸いつくナイロンのストッキングに覚えた。頬などは疼いて火照りだすのに、爪先はひどくかじかんでいる。果たしてそれは本当に降り積もる雪に足をうずめている所為だけなのか。
 無益ね、とても。
 嫂でありながら兄よりも私と居ることを好み、兄の前ですら平気で私にしな垂れかかる。病弱の兄を嫌い、肺に影が写っていたそうよと甘く私に耳打ちしたのは、もうひと月ほど前にはなろうか。
 ねえ、いいかげんにしてそろそろなかに這入ったらどう。あなたの兄さん、今、危篤よ。見届けてあげるのが義理ってもんでしょう。そんなところで途方に暮れている場合じゃないわ。
 ストッキングを穿いた脚はすらりと形よい。あなたの口から義理なんて言葉が聞けるとは夢にも思いませんでした、と、そう言い返せたならどんなにかよいだろう。
 ねえ。跣で庭に出ては寒いのではないの。雪は明日の朝まで続くのだって、さっき予報でやっていたわ。
 けれども実際には、私は義姉と目を合わせることさえ出来ないのだ。縁側に染みた年月を無遠慮に踏み潰すストッキングの脚を、ただひたすらに眺めているしかない。かじかんだ爪先は感覚を失い、正しく立っているのかどうかすら判らなくなる。どうすることも出来ない凍えは、けれども痛みも奪ってくれる。それだけが嬉しい。
 ご覧。
 何を思ったか、義姉は突然穿いていたストッキングを脱ぎはじめた。スカートがたくし上げられ、白い腿があらわになる。生身の肌と温もりの残るストッキングと、いったいどちらがより淫猥だろう。
 義姉は脱いだストッキングを右手にひょいと縁側を下りてきて、庭に積もる雪に足を沈めた。義姉の小振りな足の形にわずかに雪が乱れ、その剥きだしの爪先がたちまち白く透きとおる。
 跣で庭に出ては寒いのではないですか。呟きはやはり私の口のなかにとどまり、けっして義姉に届くことはない。義姉が私の前で立ち止まる。膝をつき、冷えた私の足を取った。
 あなたがこれを穿くといいわ。
 唇から洩れた息が白く私の指に絡む。私は爪先に触れている義姉の手を振り払った。義姉は何度でも私の足を掴んでくる。義姉の細い指が私の皮膚に喰いこみ血が滲んだが、痛みはなかった。
 ……お穿きなさい。さあ遠慮なく。
 それは静かな命令だった。私はもはや逆らうすべを持ち合わせない。義姉は微笑し、右手にしていたナイロンのストッキングを私の片方の爪先に引っ掛けた。痛みはない。
「ご覧」
 家のなかで、痰の絡んだ兄の咳がひときわ高く響いた気がした。